中国経済安定成長への期待と課題

 私は2011年から2017年まで日中経済協会理事長を務め、その後も協会21世紀日中関係展望委員会委員等として中国経済の動向をフォローしている。
 私の視座は、中国との経済交流が日本の経済発展にとって不可欠であると共に、日中友好関係の基盤であるというものである。この認識は、国交正常化40周年に当たる2012年に尖閣諸島国有化とそれに抗議する反日デモにより日中関係が戦後最悪の状況に陥った折、協会が、お互いの利益の為にこうした状況を速やかに正常化することを両国政府に求める「緊急提言」を発出するとともに、中止となった協会訪中代表団の再派遣を中国側に提案して調整を重ねる中で痛感した次第である。日中双方の外交当局及び駐日中国大使館等の尽力のお陰で、協会正副会長と経団連会長等から成るハイパワード少人数の訪中団を2013年3月、習近平政権最初の全人代が閉幕した直後に北京へ派遣して国家指導者及び経済官庁指導者と会談し、経済交流正常化の基本方向を合意するに至った。
 中国経済は改革開放以降、高度成長を続け、2010年にはGDPが世界第2位となり、その後やや減速しつつも直近で米国の3/4の経済規模となり、一人当たりGDPも1万ドルを超えるに至っている。この間2012年頃から、格差の拡大、生産年齢人口の減少、過剰生産能力、過剰債務、大気汚染等の問題が顕在化した。このため、中国はそれまでの「世界の工場」としての輸出・投資主導型から、消費をはじめとする内需主導型へ、供給面ではサービス産業とハイテク製造業主導の産業構造への転換を軸とする「新常態」への移行を進めつつある。
 折からの携帯電話・スマホの急速な普及に伴うeコマース、オンライン決済等の急成長に加えて、IoT、BigData、AI、センサー、ロボット等の第四次産業革命の波に乗って、サービス産業の拡大と経済のデジタル化が急速に進んでいる。その牽引役は民営企業であり、特に群生するスタートアップが新しい技術やビジネスモデルを社会実装・事業化する上で大きな役割を果たしている。私は深圳で失敗を許容する社会風土と旺盛な起業家マインドを見聞し、インキュベーター、VC、エンジェル、アクセラレータ等が集積する「スタートアップ支援エコシステム」構築の重要性を実感した。
 中国のデジタル化を支えている基盤は、1990年代末以降、国を挙げて取り組んできたIT、AI 人材の育成である。欧米に3百万人以上の留学生を送り出し、国内でも大学等の理数工・情報系学部を増強した。こうした取り組みが日本でも加速しようとしている。
 DXと並ぶ成長の柱であるGX(グリーントランスフォーメーション)においても中国は大きな優位性を有している。水力、太陽光及び風力発電など再生可能エネルギーの開発導入実績は世界の中で突出している。更に西部や北部の砂漠地帯や荒漠地等で大規模なメガソーラー・風力発電基地を建設し、その電力を直流送電やグリーン水素により東部の需要地に輸送するプロジェクトが計画・着工されている。従来石炭中心のエネルギー供給構造で、世界最大のCO2排出国である中国が、2030年ピークアウト、2060年カーボンニュートラルをコミットしており、その早期達成を切望する。

 他方、中国の安定成長持続を期待する見地から、今後の課題として次の2点を提案したい。
 第一は、国際社会との協調である。
中国はつとに発展途上国を卒業し、今や先進国の仲間入り寸前の経済大国・貿易大国である。ついては産業補助金、政府調達、知的財産権保護、データの自由な越境移動等の分野でWTO等の国際的ルールとの整合化を急ぐことを期待する。
 第二は、高齢化社会に対応する社会保障財源の拡充である。
 私はかつてDRC(国務院発展研究中心)高層発展論壇に参加し、社会保障基金の収支に関する議論に注目した。高齢化の進展に伴い急増する年金や医療保険等の社会保障費用を如何にして安定的に賄うかという課題は日本がつとに経験し、今なお直面している難問である。中国の ・生産年齢人口の減少
 ・団塊世代の定年到来
 ・土地使用権譲渡収入の伸び悩み 等
に鑑み、歳入・歳出両面に亘る抜本的な財源対策を講ずることによって社会保障制度の信頼性を維持することが急務である。それが消費性向の向上を通じて内需主導の経済成長にも資すると考える。
 国交正常化50周年を迎える今年、国際情勢は緊迫するも、日中経済交流と友好関係が着実に発展することを祈念してやまない。

2022年2月28日

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