日本と中国の共通感覚

 私が数年前台湾に行った際、商店でよく目に入ったのはお菓子や飲料のパッケージの日本語である。日本食など、日本にゆかりのあるものならまだ理解し得るが、明らかに日本とは関係ないものにも日本語が添えられている。パッケージに書いてあってもおかしくない言葉、食品にはふさわしくない言葉、理解できない文字列など、見ていてとても興味深かった。パッケージに日本語が書かれているとどのような効果があるのか、どのように印象が変わるのか、日本人としてそれを客観的に見るのは難しいが、機会があればまわりの中国人に聞いてみたい。
 2000年以降に中国語に取り入れられた日本語は少なくない。红豆泥(hóngdòuní/本当に)、牙白(yábái/やばい)、卡哇伊(kǎwayì/かわいい)などの音訳の単語と、宅(zhái/オタク、引きこもり)、本命(běnmìng/本命)などの漢字をそのまま取り入れたものとがある。近代に入った頃に中国語に取り入れられた日本語は「科学」や「自由」など、西洋の文物や概念を漢語によって翻訳したものが目立ったが、それらの特徴としては、漢字の意味を重視するため発音は日本のものとは異なる。それに対し2000年以降になって作られたものは、漢字の意味は二の次で日本語の音を重視するものが多い。上に挙げたものの前者である。この要因は、現代に入りアニメやゲームなどのポップカルチャーがインターネットを通じて中国でも広まり、日本語を読むことより聴く機会が増えたためであると考える。そのため、特に日本のポップカルチャーを好む若者から生み出されている。
 では日本で取り入れられている中国語はあるだろうか。中国語から日本語に取り入れられたものは料理名などが多く、大きな影響は与えていないように思われる。それ以外で一つ取り上げるとすれば「偽中国語」だろうか。2010年代以降、日本人の間で日本語の助詞など平仮名、片仮名を排除し、漢字のみで文を書くという現象がネット上で見られている。「笑過腹痛」、「我家之犬本当可愛」、「最近毎日在宅勤務為非常運動不足」など、日本人でも中国人でも理解し得るものとなっている。これは中国でも話題になっており、いくつかのメディアでも取り上げられている。
 このような2言語間の交流は、やはり漢字文化圏であるということが大きいのではないかと思う。日本と中国には漢字を通じた共通感覚があるのは明らかだ。そして、近年生み出されている新しい言葉はインターネットの影響を大きく受けていると言えるだろう。これからもインターネットの発展にともない、日本語と中国語の友好は深まることが期待される。私もインターネット社会を生きる日本語母語話者、中国語学習者としてこの動向に注目したい。

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