「JENESYS2022」日中青年研究者オンライン交流
日中で相互理解を増進すべき社会課題として「公教育」と「高齢者福祉」をテーマに取り上げ、両国社会の差異を認識しながら相互理解を深めることを目的に交流を行いました。
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Highlight
さまざまな専門分野の研究者が参加
参加者の専門分野は、近代日中関係史、社会教育、リハビリテーション、デジタルヘルス、社会保障、日本文化、社会階層、国際関係等、多岐にわたり、経歴もさまざまであることから、はじめに自己紹介を行いました。プロフィールのスライドを画面共有したり、相手国の言語で挨拶したり、日本・中国との関わりや留学経験を語るメンバーも多く、一人一人の個性あふれる“横顔”に触れることができました。
テーマセッションは、発表者がファシリテーターを務め、ディスカッション
テーマセッションは、「公教育」は日本側、「高齢者福祉」は中国側が主導し、いずれも発表者がファシリテーターを務めました。
「公教育」は「キャリア教育」を取り上げ、これからの社会を見据え、どのような力を身につけていけばよいか、両国の今後の方向性を探りました。
「高齢者福祉」は、中国の高齢化を俯瞰しながら「中国は豊かになっていない段階で進行している点が日本よりも深刻」である等、日中の違いを把握したうえで、同分野における日中協力について考えました。
両セッションとも、多様な立場からの意見が交わされ、これまで知ることのなかったお互いの国の現状、考え方に触れる場面も数多く見られました。
総括では、「交流を重ね、相互理解・信頼を構築」する重要性を指摘
日中の参加者代表ともに、総括でキャリア教育と高齢者福祉は両国の共通かつ深刻な課題であることを強調しました。日本側代表の新保敦子 早稲田大学 教育・総合科学学術院 教授は「漢字を使い、同じアジアであるが、日本と中国の社会システムや価値観は、かなり異なる。一見似ているだけに、日本は日本の、中国は中国の“尺度”で解釈・判断をしてしまう。そのことがさまざまな日中の課題を生んでいる気がする」と、議論の中でも見られたズレを指摘。だからこそ「お互いに交流を積み重ね、相互理解、相互信頼を構築していくことがきわめて重要」と総括を締めくくりました。
実施概要
実施日時 | 2022年10月27日(木) 14:00~16:50(日本時間) |
参加者 | [中国] 中国社会科学院に所属、または関連機関の青年研究者 8名 |
[日本] 日本の大学・研究機関等に所属する青年研究者 7名 | |
実施団体 | (公財)日中友好会館 |
協 力 | 中国社会科学院 |
内 容 | 「公教育」「高齢者福祉」をテーマに発表、パネルディスカッション |
実施方法 | Web会議サービス「Zoom」を使用したオンライン交流 |
主なプログラム
①趣旨説明
事業概要、プログラムの流れ、注意事項
②日中参加者代表挨拶
③参加者自己紹介
④テーマセッション1:公教育
1)日本側による発表
2)パネルディスカッション
⑤テーマセッション2:高齢者福祉
1)中国側による発表
2)パネルディスカッション
⑥日中参加者代表による総括
参加者の感想
《中国側》
◆キャリア教育について理解を深めることができました。
◆1. 専門分野の異なる研究者と有益な交流ができました。
2. 国際的な視野を持つことができました。
◆「公共教育における生涯教育」と「高齢化」をテーマに、自由に意見を交わすことができ、大きな収穫がありました。特に、あまり知らなかった生涯教育について、より多くの知識を得ることができました。ありがとうございました。
◆日本の教育に対する考え方は中国よりも進んでいます。現在、政府レベルでは職業教育が非常に重視されていますが、中国の一般の人々は、依然として我が子にエリート教育を受けさせたいと考えています。しかし、誰もが良い大学への進学を希望するので、中国の進学競争はたいへん熾烈になっています。どうすれば中国人の職業教育に対する偏見を根本的になくせるか、あるいは意識面で改善できるかが重要です。なぜ日本は中国と違うのか、なぜ日本は政府が従来の学歴社会から職業教育を重視し、人々が尊重するような社会へと発展できたのか、中国の研究者が理解することが大切だと思います。
《日本側》
◆日中の中での高齢者福祉の課題の共通点と差異を、意見交換をすることで改めて認識することができました。特に技術革新は希望であるという言葉もありましたが、連携することの可能性を改めて認識できたことが非常によかったです。
◆国際交流経験は個人的にも学術的にも少なく、公私両面でとても刺激的な経験でした。中国の参加者の皆さんからは、国をよいものにしたいという強い思いを感じました。国内でも専門領域が異なる先生方との交流には縁がなく貴重な機会となりました。 わずかな時間ではありましたが、相手の息づかいを感じ取ることで、知っているつもりでいて分かっていないということを理解しました。知らないこと、経験のないことを恥じずに積極的に交流していかなければならないと思いました。
◆日本語での交流を可能にしてくださった中国側の皆様のおかげで、きわめて有意義な議論ができたと思います。私自身は教育学について門外漢ですが、中国側の先生方に質問に答えていただく機会を得られて、たいへん光栄でございました。
今回は事前に公教育というテーマを伝えていただきましたが、もう少し詳細なテーマないし報告資料を共有していただければ、よりよい準備ができたかもしれないと思いました。先生のご報告がすばらしかっただけに、こちらも可能な限り予習したかったという気持ちが残りました。
◆中国側の方々の流暢な日本語に驚きました。そして、日本に対してとても関心を持ってくださっていることが分かり、とてもうれしく、ありがたく感じました。公教育におけるキャリア教育、高齢者福祉と日中が同じ課題を抱えていることと同時に、それに対する認識の違いもあることが垣間見え、興味深かったです。
◆公教育はキャリア教育についての議論で、テーマとしては、非常に興味深いものであった。ただし、議論を聞きながら、少し議論がかみ合わない印象を受けた。たとえば、中国側の意見では、中国において「高学歴社会で、ほとんどの大学生が大学院に進学するようになってきた」ので、「キャリア教育は大事ではない」といった趣旨が語られ、また、JICAによるソマリアの青年への開発支援が紹介されていた。
いささか議論にズレがあるように思われたのは、おそらく「キャリア教育」をどうとらえるのか、つまりキャリア教育に関する定義が、日本と中国とでは異なっているためであったように思われる。日本の場合、就職のためのスキルを身につけるということだけではなく、将来にわたる人生設計、いかに自分の人生を生きていくのかということも含まれているのではなかろうか。中国の場合は、職業につくための教育という理解がなされているように感じられた。このような「日中のズレ」という意味で、議論は大変に興味深いものがあった。ズレが生じるからこそ、双方での議論を積み重ね、相互に理解を図っていく必要があるのではないか。
日本と中国とでは、歴史的な背景も異なるし、社会のシステムや価値観も異なる。しかし、日中は同じ東アジアの国であり、つい分かったような気がするために、自分の判断基準で相手国をとらえがちになってしまう。日本人は日本人の尺度で、中国を見る。中国人は中国人の尺度で、日本を見る。そうしたことが、相互の誤解を生んでいるようにも思われる。その意味で、お互いに交流と対話を積み重ね、相互理解と信頼を構築することが、きわめて重要である。そのプロセスにおいて、「民間交流」は鍵を握るものである。民間交流があったからこそ、日本と中国とは、日中戦争、その後の長い間の国交断絶があったものの、乗り越えることができた。ぜひ民間交流は、粘り強く続けていきたいものである。